漢詩と中国文化 |
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烏喙は本と海獒なり:蘇軾を読む |
蘇軾は海南島で一匹の犬を飼っていた。海南島を出るとき、蘇軾はこの犬も連れて行った。一行が澄邁駅を過ぎたとき、川の流れがあった。そこには長い橋が架かっていたが、犬はその橋を渡らずに、川を泳いで渡った。その様を見て、駅の人々はみな驚いたという。 余來儋耳得吠狗曰烏觜甚猛而馴隨予遷合浦過澄邁泅而濟路人皆驚戲為作此詩 余 儋耳に來りて、吠狗の烏觜と曰へるを得たり、甚だ猛にして馴れたり、予に隨って合浦に遷り、澄邁を過るに、泅(およ)いで濟る、路人皆驚く、戲れに此の詩を作る 烏喙本海獒 烏喙は本と海獒なり 幸我為之主 幸に我之が主と為る 食余已瓠肥 食余 已に瓠の如く肥え 終不憂鼎俎 終ひに鼎俎を憂へず 晝馴識賓客 晝は馴れて賓客を識り 夜悍為門戶 夜は悍にして門戶と為る 知我當北還 我が當に北へ還らんとするを知り 掉尾喜欲舞 尾を掉って喜び舞はんと欲す 烏喙はもともと海南の犬である、幸いにこの犬を飼うこととなった、余り物を食って丸々と太り、御馳走などには目もくれぬ、 昼には馴れて客を知り、夜には精悍にして番犬となる、主人がまさに本土に帰ろうとするにあたり、尻尾を振って喜んでついてきた 跳踉趁僮仆 跳踉して僮仆を趁ひ 吐舌喘汗雨 舌を吐いて喘いで雨に汗す 長橋不肯躡 長橋 肯へて躡まず 徑度清深浦 徑(ただち)に清深の浦を度る 拍浮似鵝鴨 拍浮 鵝鴨に似たり 登岸劇叫虎 岸に登れば叫虎よりも劇し 飛び跳ねて下男の後を追い、舌を吐いてハアハアと息をする、長い橋をみれば渡ろうとはせず、どぶんと川の中に飛び込んで泳いで渡った、浮かんでいるさまは鴨のようだが、岸に上がれば叫び声をあげる虎よりも強そうだ、 盜肉亦小疵 肉を盜むは亦小疵なれども 鞭垂當貰汝 鞭垂 當に汝を貰(ゆる)すべし 再拜謝恩厚 再拜して恩厚に謝す 天不遣言語 天 言語せしめず 何當寄家書 何當(いつか)家書を寄すべし 黃耳定乃祖 黃耳は定めて乃(汝)が祖ならん 肉を盗んだことは悪いことには違いないが、今回は鞭をくれるのを許してやろう、そういうと再拝して感謝しているように見える、別に言い訳などせんでもいいよ、そのうちお前に家族への手紙を届けてもらおう、あの伝令役の犬黃耳はきっとお前の先祖に違いない |
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