漢詩と中国文化
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月夜與客飮酒杏花下:蘇軾の詩を読む



蘇軾の七言古詩「月夜客と杏花の下に飮酒す」(壺齋散人注)

  杏花飛簾散餘春  杏花 簾に飛んで 余春を散ず
  明月入戸尋幽人  明月 戸に入って 幽人を尋ぬ
  絡衣歩月踏花影  衣を絡げ 月に歩して 花影を踏めば
  烱如流水涵青蘋  炯として流水の青蘋を涵すが如し
  花間置酒清香發  花間に置酒すれば 清香発す
  爭挽長條落香雪  争でか長条を挽きて香雪を落さん
  山城薄酒不堪飮  山城の薄酒 飲むに堪へず
  勸君且吸盃中月  君に勧む 且く吸へ 盃中の月
  洞簫聲斷月明中  洞簫 声は断ゆ 月明の中
  惟憂月落酒盃空  惟だ憂ふ 月落ちて 酒盃の空しからんことを
  明朝卷地春風惡  明朝 地を巻いて 春風悪しくば
  但見緑葉棲殘紅  但だ見ん 緑葉の残紅を棲ましむるを

杏花が簾に降りかかって春の気配が尽きようとする頃、名月が戸口から入ってきて自分を訪ねてくれた、衣をかかげ月光を浴びながら花の影を踏めば、まるで流水が浮草を浸しているように見える

花に囲まれて盃を汲めば清香が発し、なにも長い枝を引き寄せて雪のような花びらを盃に落とすこともない、ただこの酒は山中のものとてはなはだ薄い、せめて盃に写った月影でも飲んでほしい

洞簫の音が月明の中でやんだ後に、月影も消えて盃に何も残らないのが残念だ、明朝春風が花びらをことごとく落としたならば、せめて新緑の間に散り残った花でも探してほしい


元豊二年(1079)徐州にあっての作。四川から張師厚が訪ねてきたとき、王子立らとともに杏花の下で宴を催した。王子立は後に蘇轍の娘婿になる人物で、洞簫の名手だったという。

杏子は初春に咲く、この詩は初春の夜のあでやかな雰囲気を心残りなく歌い上げている。実に色気のある詩だ。






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