パリ紀行 |
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リドのショーを見る:パリ紀行その十 |
かつてロンドンに旅せし折、夜の楽しみといへばミュージカルにつきたり、パリの場合には一流キャバレーでのナイトショーと聞きゐたれば、その方面をいろいろ物色したる結果、リドのディナーショーを見物することとなす。これは食事をなしつつトップレスショーを楽しまんとするものにて、男は無論、女も喜ぶ出し物といふなり。 会場はシャンゼリゼー通り沿ひの凱旋門近くの建物なり。外目には一向目立たず、実際余らも、先日この前を通りがかりしにかかはらず、気づかずに過ぎたるほどなり。 七時過ぎに劇場に入り、席に案内せらる。四人一卓にて、我が席は余と横子の外、七十歳過ぎと思しき老人と若い女性の組み合はせ同席せり。ここにてフランス料理のコースを食ひ、九時半頃よりショーを楽しめり。 同席の女性がいふに、彼らは、祖父とその孫娘の組み合せにて、いはゆるお爺さん孝行のために、孫娘がヨーロッパを案内して歩くなりと。しかしていふ、ついこの前まではスペインを旅行し、三日前にフランスにつきましたの、今後はギリシャに行くつもりですのよ 余らもパリ旅行を楽しみをる由を語る、しかして今朝は横子のランジェリーを求めてパリ中を歩き回りしといふに、孫娘「うふっ」と、微笑をもらしぬ。どうやら余らを、同性愛者のカップルと思ひ込みたるが如し。 この孫娘は年頃三十歳近くには達したると覚し、妙に世慣れせる風情にて、しかも色気あり、横子などは傍目にも鼻の下大分伸びて見えたるは、女の色気の強烈なるさまを物語る証拠と思へたり。 一方老人のほうはぶすっとした表情にて、孫娘の楽しさうなる顔の横にをりて、始終きむつかしさうにワインを飲みゐたり。 そのうち孫娘なるもの、老人に向かって怒りの仕草をなす、そのいふところを聞くともなく聞くに、次のやうな話の筋なり、 「どうしてあなたは、わたしがほかの男と話し始めると、いつも不機嫌な顔をするの、やきもちを焼いてゐるんでしょ、みっともないわよ、あなたも会話に加はりなさいよ、この人たちはあなたが思っているやうな人たちじゃないんだから」 どうやらこの男女は、お爺さんと孫娘とはいひつつも、血はつながりをらぬやうなり。 孫娘がトイレに行くとて席をはずしたる際、余お爺さんに向かひていはく、貴殿のお孫さんはずいぶん活発でをられますな、お爺さんにこにこして答へていはく、活発も時と場合によりますがな、 そのうち余も便意を催したれば、トイレに行くに、入り口に若い女待ち受けて、チップの徴収をなす、チップは一便につき五十サンチームなり 九時半頃よりショー始まる、二メートル近き大女大勢登場して、踊りをなす、皆おほむねトップレスなり、巨大なる女たちがそれぞれに乳房を揺らしつ踊るさまは、さながらアマゾネスの乱舞を思はしめたり。 中にも主演の女優は、かのマレーネ・ディートリッヒを思はしめて、極めて妖艶なる雰囲気の美女なり、しかも頗るムーディなる声を以て人を悩殺す。余などは後頭部のしびれるを感ぜしほどなり。 踊りのほかに、サーカスの曲芸もあり、二時間ばかりの演技はあっといふまに終はりたり ショーの終了間際に、客の集中を逃れんとて、一足先に退席して、再びトイレに赴く。このたびは小銭の用意万端ならず、ポケットをまさぐりて二十サンチームを与へ、これにて許せといふに、先ほどと同じトイレ嬢、にっこりと笑ひて了解したり。余の顔を覚えゐたりしが如し。 劇場を出でて後、マイバスに送られてホテルに戻る。時に十二時を過ぎたり。 |
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