パリ紀行
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バスティーユにてオペラを見る:パリ紀行その十三


夕刻ホテルを出で、七時近くバスティーユに至る。ここにて便意を催したれば、公衆トイレに入らんとす。広場の一角にボックス型の単身用トイレ設置せられたるなり。先客あり。その出来するを待ちて中に入らんとするに、後ろに待ち構へをる紳士より制止せらる。いまだトイレの洗滌終らざれば、しばし待ちたまへと。



このトイレは、使用者用を済ませて外へ出で、ドアを閉めたる後に自動的に便器の洗滌始まるなり。いつかロンドンにて遭遇したる箱型公衆トイレと同じ原理を採用しをるなり。



オペラは七時半より始まりたり。題目はワグネル作「さまよえるオランダ人」、これをフランス語にては Le Vaisseau Fantome (幽霊船)といふなり。

余は日頃オペラを見ること殆どあらざれど、パリはイタリアと並んでオペラの本場、ここに来てオペラを見ざるものはよこしまなりと思ひなし、あへてオペラを見たるなれど、横子には或は迷惑なりしを恐るるなり。



観劇終了して後、バスティーユの街を歩み、カフェ・ロトンドなる店の路上席に座せんとす。ヴェトナム人と覚しき若者来りて、余らを二つのグループの合間に案内す。いづれのグループも女の集団なり。席に座せば、隣の女子とは体を密着せんばかりなり。余この密着感を楽しみつつワインを味はひたり。

改めて思ふに、パリの街角にはいたるところ、路上の席に座してワインを飲みつつ、おしゃべりに興ずる人々を見かけるなり。飲み物の値段は決して安くはなけれど、かうして友達とおしゃべりすることは、精神衛生の向上には大いに役立つべし。



日本には縄のれんあり、会社員アフターファイブに立ち寄りて、ストレスを発散するには都合よけれど、女子はあまりたち入ることなし、また飲み仲間は会社の延長なれば、精神衛生にとってよいことづくめにもあらず

これに対してフランスのカフェは、年齢、性別、社会的立場をとはず、あらゆる人々に解放せられ、いかなる人の精神衛生をも安からしむ、すぐれたる社会的装置といひうるなり





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