漢詩と中国文化
HOMEブログ本館東京を描く水彩画陶淵明英文学仏文学西洋哲学 | 万葉集プロフィールBSS




琵琶行并序:白居易の歌詞


江州に左遷された翌年の元和十一年(816、46歳)、白楽天は琵琶行と題する歌詞を作った。友人を送る途中、たまたま琵琶を弾く夫人と遭遇し、その夫人の身の上話を聞くうちに、自分の境遇の悲しさが改めて身にしみ、この歌を作ったと序文にあるとおり、琵琶を弾く夫人にかこつけて自らの流謫の身の上を歌ったものと解される。そのへんのいきさつは、序文に詳しい。


元和十年秋予左遷九江郡司馬明年秋送客湓浦口聞舟中夜彈琵琶者聽其音錚錚然有京都聲問其人本長安倡女嘗學琵琶於穆曹二善才年長色衰委身爲賈人婦遂命酒使快彈數曲曲罷憫然自敍少小時歡樂事今漂淪憔悴轉徙於江湖閒予出官二年恬然自安感斯人言是夕始覺有遷謫意因爲長句歌以贈之凡六百一十六言命曰琵琶行

元和十年秋、予九江郡の司馬に左遷せらる、明年秋、客を湓浦の口(ほとり)に送るに、舟中に夜琵琶を彈く者を聞く、其の音を聽くに、錚錚然として京都の聲有り、其の人を問へば、本(もと)長安の倡女にして、嘗て琵琶を穆・曹二善才に學び、年長じ色衰へ、身を委ねて賈人の婦と爲ると、遂に酒を命じて數曲を快彈せしむ、曲罷りて憫然たり、自ら少小の時の歡樂の事と、今は漂淪憔悴して江湖の閒に轉徙することを敍ぶ、予官を出でて二年、恬然として自ら安んずるも、斯の人の言に感じ、是の夕、始めて遷謫の意有るを覺ゆ、因て長句の歌を爲り、以て之に贈る、凡そ六百一十六言、命けて琵琶行と曰ふ(湓浦:九江を流れて長江に注ぐ川、錚錚然:高く澄んだ音のさま、善才:音曲の師匠、賈人:商人、憫然:悲しげなさま、轉徙:転々と移り歩く)

  潯陽江頭夜送客  潯陽江頭 夜 客を送る
  楓葉荻花秋瑟瑟  楓葉荻花 秋瑟瑟たり
  主人下馬客在船  主人は馬より下り 客は船に在り
  擧酒欲飲無管絃  酒を擧げて飲まんと欲するも管絃無し
  醉不成歡慘將別  醉うて歡を成さず慘として將に別れんとす
  別時茫茫江浸月  別るる時 茫茫として江は月を浸す
  忽聞水上琵琶聲  忽ち聞く 水上琵琶の聲
  主人忘歸客不發  主人歸るを忘れ 客發せず
  尋聲暗問彈者誰  聲を尋ねて暗(ひそか)に問ふ 彈く者は誰ぞと
  琵琶聲停欲語遲  琵琶の聲は停み 語らんと欲する遲し
  移船相近邀相見  船を移して相ひ近づき 邀(むか)へて相ひ見る
  添酒囘燈重開宴  酒を添へ燈を囘して重ねて宴を開く
  千呼萬喚始出來  千呼萬喚 始めて出で來るも
  猶抱琵琶半遮面  猶ほ琵琶を抱きて半ば面を遮る

潯陽江のほとりに夜、客を送る、楓葉荻花に秋の物悲しさを感じる、主人は馬から下り客は船にあって、ともに酒を飲もうとしたが管絃がない

酔っても楽しくはなく惨めな気持ちになる、別れに臨んで茫々たる水面には月が浮かんでいるのが見える、すると突然琵琶の音が聞こえてきた、主人は帰ることを忘れ客も出発しようとはしない

音のするほうに向かってひそかに聞く、誰が弾いているのかと、琵琶の音がやんだがすぐには返事がない、そこで船を近づけて呼びかけてみた、そして酒を添え灯りをまわして重ねて宴を催した、

何度も声をかけた末にやっと出てきたが、なお琵琶を抱いたまま顔を袖で隠している






HOME白楽天次へ






 


作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2009-2014
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである