漢詩と中国文化
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琵琶行その四:白楽天の歌詞


白楽天の歌詞「琵琶行」その四(壺齋散人注)

  我聞琵琶已歎息  我琵琶を聞いて已に歎息し
  又聞此語重喞喞  又此の語を聞いて重ねて喞喞たり
  同是天涯淪落人  同じく是れ天涯淪落の人
  相逢何必曾相識  相ひ逢ふ 何ぞ必らずしも曾て相ひ識らんや
  我從去年辭帝京  我 去年 帝京を辭してより
  謫居臥病潯陽城  謫居して臥病す 潯陽城
  潯陽地僻無音樂  潯陽 地僻にして音樂無し
  終歳不聞絲竹聲  終歳 絲竹の聲を聞かず
  住近湓江地低濕  住まひは湓江に近くして 地は低濕
  黄蘆苦竹遶宅生  黄蘆苦竹 宅を遶って生ず
  其閒旦暮聞何物  其の閒 旦暮 何物をか聞く
  杜鵑啼血猿哀鳴  杜鵑啼血し 猿哀鳴す

自分は琵琶を聞いて嘆息し、またこの話を聞いて重ねてため息が出た、この人も私同様天涯淪落の人なのだ、こうして会ってみれば昔馴染みならずともなつかしい(喞喞:ため息が出るさま)

自分は昨年都を辞してから、潯陽城に謫居臥病する身、潯陽は僻地にして音楽がない、終歳管弦の音を聞くことがない

住居は湓江に近く低湿地、家の周りには黄蘆苦竹が生い茂っている、そんなところで明け暮れ聞えるものとては、杜鵑が血を吐いて泣きわたる声と猿がむせび泣く声のみだ

  春江花朝秋月夜  春江の花の朝 秋月の夜
  往往取酒還獨傾  往往酒を取って 還た獨り傾く
  豈無山歌與村笛  豈に山歌と村笛と無からんや
  嘔啞啁哳難爲聽  嘔啞啁哳 聽くを爲し難し
  今夜聞君琵琶語  今夜 君が琵琶の語を聞いて
  如聽仙樂耳暫明  仙樂を聽くが如く 耳暫らく明らかなり
  莫辭更坐彈一曲  辭する莫かれ 更に坐して一曲を彈け
  爲君翻作琵琶行  君が爲に 翻して作らん琵琶行
  感我此言良久立  我が此の言に感じて 良(やや)久しく立ち
  卻坐促絃絃轉急  卻き坐して絃を促せば 絃轉(うたた)急なり
  凄凄不似向前聲  凄凄として 向前の聲に似ず
  滿座重聞皆掩泣  滿座重ねて聞き 皆泣を掩(おほ)ふ
  就中泣下誰最多  就中泣下ること 誰か最も多き
  江州司馬靑衫濕  江州の司馬靑衫濕ふ

春江の花の朝や秋月の夜には、ときに酒をとって一人杯を傾けることもある、山歌と村笛とがないわけではないが、そのひどい音は聞くに耐えない(嘔啞啁哳:嘔啞はわめく声、啁哳はけたたましい泣き声)

今夜あなたの琵琶の音を聞いて、仙人の楽を聞くようで耳が洗われる思いがしました、どうか去らないでもう一曲弾いてください、あなたのために歌詞を作って差し上げましょう

私のこの言葉に感じて女はしばらく立ったままだったが、そのうち座って弦を急調子で引き始めた、その音は先ほどとは違って物悲しく聞こえ、満座のものはみな涙にくれた、その中でももっとも多く涙を流したものは誰か、それはほかならぬ江州の司馬(つまり白楽天)だ(凄凄:物悲しいさま、江州司馬:白楽天の官名、靑衫:青い上着、官吏の服装)


最終段落では、女の話に感動した作者が、女に再び琵琶を弾くよう求め、そのために歌詞を作ろうと約束する。はたして女が再び琵琶を弾くや、その音は先ほど似まして物悲しく聞こえ、作者の靑衫を涙でうるおしたのであった。






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