漢詩と中国文化
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自詠老身示諸家屬:白楽天を読む


白楽天の五言古詩「自ら老身を詠じ諸家屬に示す」(壺齋散人注)

  壽及七十五  壽は七十五に及び
  俸沾五十千  俸は五十千に沾ふ
  夫妻偕老日  夫妻 偕老の日
  甥侄聚居年  甥侄 聚居の年
  粥美嚐新米  粥は美にして新米を嚐め
  袍溫換故綿  袍は溫かにして故綿を換ふ
  家居雖濩落  家居 濩落と雖も
  眷屬幸團圓  眷屬 幸ひに團圓たり
  置榻素屏下  榻を置く 素屏の下
  移鑪青帳前  鑪を移す 青帳の前
  書聽孫子讀  書は孫子の讀むを聽き
  湯看侍兒煎  湯は侍兒の煎るを看る
  走筆還詩債  筆を走らせて詩債を還し
  抽衣當藥錢  衣を抽いて藥錢に當つ
  支分閑事了  閑事を支分し了り
  爬背向陽眠  背を爬きて陽に向って眠る

寿命は七十五に及び、俸禄は五十千をいただいておる、夫妻ともに老いる日、眷属どもが聚居する年(五十千:五万銭、甥侄:眷属)

新米でうまい粥を作ってすすり、古綿を入れ替えて暖かい上着を作る、家の中はだだっ広いだけだが、幸いに眷属が団欒している(濩落:郭落、だだっ広いさま、團圓:一家団欒の様子)

腰掛を白い屏風の下に置き、火鉢を青い帳の前に移す、孫が書を読むのを聞き、侍女が湯を沸かすさまを見る(榻:腰掛、鑪:炉、火鉢、侍兒:侍女)

筆を走らせて約束の詩を書き、衣を質に入れて薬代に当てる、こうした小用を済ました後は、背中を掻きながら陽に向かって眠るのだ(詩債:詩を書く約束、閑事:こまごまとした用事、支分:処分に同じ)


白楽天は会昌六年(846)、75歳で寿命を全うした。この詩はその最後の年に書かれたもの。老後の長閑な生活の様子が飾りなく描かれている。






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