漢詩と中国文化
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遣興:杜甫を読む



杜甫の五言古詩「興を遣る」(壺齋散人注)

  驥子好男兒  驥子は好男兒なり
  前年學語時  前年語を學びし時
  問知人客姓  問知す人客の姓
  誦得老夫詩  誦し得たり老夫の詩
  世亂憐渠小  世亂れて渠の小なるを憐れむ
  家貧仰母慈  家貧しくして母の慈なるを仰ぐ
  鹿門攜不遂  鹿門 攜ふること遂げず
  雁足系難期  雁足 系(か)くること期し難し
  天地軍麾滿  天地 軍麾滿ち
  山河戰角悲  山河 戰角悲し
  ?歸免相失  ?(も)し歸って相ひ失ふを免かれなば
  見日敢辭遲  見る日 敢て遲きを辭せんや

わが子は良い子だ、前年語を学んだときに、客の名を尋ね知り、父親の詩を読むことができた

世が乱れた中でまだ幼いのが不憫だ、貧しい中で父と離れ、さぞ母を頼っていることだろう、一緒に連れて来られなかったのが心残りだ、雁の足に手紙をつけて便りを交し合うのも期しがたい

天地には軍麾が滿ち、山河には戰角が悲しく響く、もしも再びあうことができさえすれば、その日が多少遅くなっても気にはならぬ


憶幼子と同じく、別れ別れになった子を思う歌だ。驥子とは杜甫の男の子宗武のこと。幼い頃から賢かったのだろう。我が子の賢さを歌う杜甫は世の親馬鹿と同じような気持ちを素直に表しているが、自身がとらわれの身となって、身近に見ることができない。

雁の足に手紙を結わえ付けて、近況を知り合いたいとも思うが、それも思うようにまかせぬ。しかしいづれは会うこともできるだろう。そのときのために、あせらずに待ち続けようと、杜甫はそんな切ない親心を歌う。






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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2009
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