イタリア紀行
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イタリア紀行その十一:ヴァティカン美術館


(ヴァティカンの外壁)

九月廿九日(火)晴。朝食を済ませて後八時四十分にホテルを出でテルミニ駅に向かって歩く。駅近くのタバッキにて地下鉄・バス共通二十四時間乗車券を買ひ求めチンクエチェント広場より地下鉄に乗る。オッタヴィアーノ駅に下車。ヴァティカン美術館に向かって歩み行くに、あちこちにダフ屋たむろして闇入場券を売る。この券を持参すれば待たずに即刻入場しうると言ふなり。通行人の中には足をとめてその券を求むる者もあり、余らはあらかじめ同趣旨の入場券を事前に買ひ求めてありしかば無視してそのまま進む。

ややしてヴァティカンの外壁の一端に取り付く。この一端をまっすぐ進めばサン・ピエトロ広場、右に曲がればヴァティカン美術館の入口なり。右に曲がって外壁沿いに歩み行くに入口のだいぶ手前より長蛇の列作られてあり。予約券を持たざるものはこの列に並ぶべし、予約券を持つものはまっすぐに進めとあれば列を迂回して進む。果たして予約券専用の窓口を通じてスムーズに入場することを得たり。コロセオにては予約券を持たずしてかへってスムーズに入場することを得たりしが、ヴァティカンにおいては予約券を持てることが幸ひせるなり。


(ヴァティカン美術館二階テラス)

館内は夥しき数の客雑踏す。エントランス付近のブックショップにて館内の案内図を探し求めしが無料の地図は発行せざるによって有料のガイダンスブックを買へと言はる。されど有益なるガイダンスブックを見つけることを得ず。持参せし地球の歩き方を頼りに館内を巡見せんとす。館内の構造は複雑至極にしてその明確な概念を得るに難儀したれど、人々の流れに従ってなんとはなしに館内の主要部分を巡見しえたるやうなり。


(回廊内部)

二階のテラスより展示室を連ねたる回廊に入る。この回廊両脇の壁はもとより天井にいたるまで絵画・彫刻の類もて覆はれてあり。回廊を仕切ってそれぞれテーマ別の展示室となす。回廊を進み行くほどに手前より大蝋台のギャラリー、タペストリーのギャラリー、地図のギャラリー、ピウス五世の居室など次々と現れそれぞれ趣向を異にする展示物を見ることを得るなり。


(回廊内のレリーフ)

ギャラリーを仕切る壁には巧妙な彫刻類施されてあり。これはそれぞれのギャラリーのテーマとは無関係にキリスト教の宗教的イメージを表現せるものの如し。


(ラファエロ作アテネの学園)

回廊の先にラファエロの間なるものあり。四室からなり、そのうちの二室にラファエロの作品を掲示す。そのひとつにかのアテネの学園あり。人をして圧倒せしむる迫力あり。

ラファエロの間とシスティナ礼拝堂を結ぶ回廊には現代美術展示せられてあり。いづれも宗教的作品なり。中に藤田嗣治の作品もあり。聖母像なり。藤田にはめずらしく宗教的な雰囲気を感ぜしむるなり。

システィナ礼拝堂は周囲のほぼ全面をミケランジェロの手になる画に覆はれてあり。天井には旧約に取材せるもの、壁面には最後の審判を描く。その迫力は到底筆にしがたきものを感ず。ミケランジェロは毎日巨大な脚立の上に立って顔を上に向けたるまま絵筆を振り続け天井の全面を埋めしと伝へらる。その所業人間の業とは思はれぬなり。

システィナ礼拝堂の壁画・天井画と言ひメディチ家礼拝堂の彫刻群と言ひミケランジェロは実に偉大な芸術家と言ふべきなり。余イタリアにてその原作に接し彼を崇敬する念を強めたり。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2015
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