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日本神話の世界:記紀(古事記・日本書紀)を読み解く


日本神話と呼ばれるものは、古事記と日本書紀という官製の記録文書をもとに構成されている。これは日本神話の最大の特徴といってよい。さまざまな民族には、それぞれ固有の神話があり、それらの中には権力の介入が認められるものもあるが、日本神話のように、全面的に権力によって作成されたというのは、珍しい部類に属するのではないか。神話は、基本的には、民族の想像力を体現したものであり、民族の生き様を反映している。神話の語り手も、庶民の代表者たる吟遊詩人などであった。ところが日本神話は、天武天皇という特定の権力者が、天皇制権力の正統性を謳歌することを目的として、特定の時代に編纂された。きわめて政治的な意図を感じさせるのである。そういうものは、歴史を合理化するための弁証論であって、神話とはいえないという意見もあるが、今日の常識では、記紀(古事記・日本書紀)に書かれていることが、日本神話の骨格的な内容とされている。

古事記と日本書紀とでは、編纂の目的や過程に相違があり、また内容にも微妙な相違がある。しかし、天皇を日本を創造した神々の子孫であるとすることは共通している。それを根拠として、日本近現代史の一時期には、天皇を現人神とたたえ祭るような考えも生まれた。神話が即君主の権威の源泉とされるようなことは、いわゆる近代国家には稀有のことといってよい。記紀神話は、単なる神話ではなく、事実の記録とされ、その事実に基づいて天皇の権威が成り立っているという擬制がなされているわけである。

古事記は、天皇家の起源にかかわることがらを、神話のかたちをとって表現したものである。もともと天皇家を中心にして伝承されてきたことがらを、文書のかたちにまとめあげたという体裁をとっている。だから、基本的には、天皇家にかかわる歴史を説いたものなのだが、その歴史の中には、天皇家にとどまらず、日本民族全体の起源とか生き方にかかわる部分も存在する。そうした部分が、いわゆる神話の骨格をなすわけである。それを読み解くと、日本民族の起源について、なんらかのイメージを得ることができる。それをごく単純にいうと、日本民族は、世上いわれているような単一の民族ではなく、雑多な民族が集まって形成されたということになる。その雑多な民族はさらに、北方系と南方系とに分類される。その北方的な要素と南方的な要素とが混在するというのが古事記の基本的な構造である。高天原の神話は北方的要素の最たるものであり、オオゲツヒメ神話などは、南方的要素の最たるものである。

一方、日本書記は中国の歴史書を参考にして編纂されたというのが今日の通説である。中国の歴史書は王朝の交代ごとに正史として編纂されてきたが、それは基本的には、紀伝体という構成をとっており、国家の主要な出来事を記す本紀、主要人物の伝記を記す列伝、国家社会の実情を記す志からなっていた。それを引き継ぎ、同様な形で正史を編纂する目的で日本書紀が作られた。だから日本書紀は単独ではなく、列伝と志をも併せ持つはずだったが、結果的に本紀としての現行の日本書紀のみが完成した。なお、諸国の風俗を記録した風土記は、志の基本資料として集められたと考えられている。

古事記と日本書紀の文体は全く異なっている。古事記は漢字を用いながらも、それを表音文字として使い、和文の文体で書かれている。その点では、万葉集の表記を先取りしている。一方日本書紀は、基本的には漢文の文体で書かれている。当時の日本には、漢語を自由に操れる知識人がいて、それが天皇家に伝わる記録をもとに、日本の歴史を漢語であらわしたのである。

いずれにしても、古事記と日本書紀に代表される日本の神話及びそれに接続する日本の古代史が、極めて政治的な意図から編纂されたことは間違いない。とはいっても、それに日本人の神話的あるいは歴史的想像力が込められているのも事実なので、我々今日の日本人は、記紀に記された世界を日本の神話的世界とみなすことができるといえる。というより、記紀をのぞいて、われわれに日本の神話的世界を伝えるものは、ほかにないといってもよいのである。つまり記紀神話は日本人の神話的想像力が盛られた貴重な文書なのである。。

そんな日本の神話的世界について、古事記及び日本書紀を読み解きながら、明かにしていきたいと思う、


● 日本神話における南方的要素

● 日本神話へのシャーマニズムの反映

● 古事記における性的表現:日本神話のセクソロジー

● トリックスターとしてのスサノ:日本神話の世界

● オホクニヌシ(大国主)の死と再生:日本神話の世界

● スクナヒコナ(少彦名神)と山田の案山子:日本神話の世界

● 国譲り神話(葦原中国のことむけ):日本神話の世界

● 天孫降臨神話:日本神話の世界

● 猿田彦と天狗:日本神話の世界

● 海の幸 山の幸:日本神話の世界

● 神武東征:日本神話の世界

●  悲劇の英雄ヤマトタケル(日本武尊):日本神話の世界

● 神宮皇后 荒ぶる女帝

● 雄略天皇:国褒め歌と伝承歌の世界


● 三浦佑之「古事記を読みなおす」

● 古事記における出雲神話:三浦佑之「古事記を読みなおす」

● 三輪山にいます神

● 始祖王ホムダワケ(応神天皇)

● オホサザキ(仁徳天皇)の求婚物語

● オホハツセワカタケル(雄略天皇)の権力闘争

● オケとヲケ:日本版シンデレラボーイ


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