人形町の街角2(26×36cm ヴェランアルシュ 2004年12月)

初冬の人形町を訪れた。鮮やかに色づいた公孫樹が建物に濃い影を落とし、道行く人々は厳冬期に備えて忙しそうだ。界隈を歩き回り、甘酒横丁人形町通りの交差するあたりでスケッチにとりかかった。絵の中の赤い壁の建物はは快正軒という古い喫茶店で、甘酒横丁に面して立っている。画面の右手には地下鉄の駅があり、左手を少し進むと、さるビルの壁面に谷崎潤一郎生誕地の碑が掛かっている。

谷崎は自分の生まれ育ったこの町を生涯愛し続けていたようだ。東京のがさつさを憎み、関西に残る古い情緒を好んだ彼にも、この町だけは特別のものだったようで、晩年には「ふるさと」と題する文章の中で、少年時代のこの町の思い出をなつかしそうに振り返っている。

絵の中で人々が並んでいるように見えるのは、玉ひでという店の親子丼を食うために行列を作っている人々である。たかが親子丼と思われるが、玉ひでという店は宝暦年間以来続く軍鶏料理の店で、親子丼を考案した当の店とのこと。谷崎の追想文にもその名が見える。






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