本郷菊坂(25×34cm 2005年4月)

樋口一葉の家が貧しかったことはよく知られている。一葉の父即義はもと甲州の農民であったが、武士になりたいという執念が強く、多額の借金をして八丁堀同心の株を買った。この借金がもとで経済難に陥ったのである。父の死後、一葉は家長として家の経済を支えなければならなくなり、浅草で小店を営んだりしたが、若い女の手で商売がうまく運ぶわけもなく、一葉は常に貧乏神に取り付かれ続けたのだった。

そんな一葉が金策のために度々足を運んだ質屋というのが、本郷菊坂下に残っている。伊勢屋といって、今でも質蔵が通りに面して立っているが、建物自体に歴史的な価値があるというので、文化財に指定され、時折テレビドラマのロケに使われたりしているそうだ。

数年前、わたくしは本郷の町を散策するついでに菊坂辺を歩いたことがあったが、その折にみかけたこの建物に興味をそそられてスケッチしたものである。一葉ゆかりの故事を知らぬでも、建物自体が発するオーラのようなものが、人の絵心を捕らえたのである。






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