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源氏物語絵巻:画像の鑑賞と解説


源氏物語を絵画にしたいわゆる「源氏絵」は、平安時代から現代にいたるまで、様々な形で描きつがれてきた。その中で最も古いものは、国宝指定されている平安時代末期の「源氏物語絵巻」である。これは、尾張徳川家に伝わってきた15面の絵(蓬生、関屋、柏木3、横笛、竹河2、橋姫、早蕨、宿木3、東屋2、現在は徳川美術館蔵)と、阿波蜂須賀家に伝わってきた4面(鈴虫2、夕霧、御法、現在は五島美術館蔵)からなる。いづれも、同一の絵巻物の一部がそれぞれ別れて伝わったとされるが、どのようないきさつで両家に伝わったか、その経緯はよくわかっていない。もともと鷹司家にあったものが、子女の婚礼の引き出物として両家に分与されたのではないか、と推測されている。

現存するのは19面(ほかに詞書の部分が37面)であるが、もともとの形は、源氏物語54帖すべてに対応していたと思われる(現存するものは12帖分に対応)。またそれらは、絵巻物の形になっていたものを、現在は、保存の都合上、場面ごとに切り離して額装してある。というのも、源氏物語絵巻のそれぞれの部分は、ほかの絵巻物とは異なって、完結した絵を継ぎ合わせる形で作られていたため、切り離しやすかったのである。それぞれの部分は、縦21.8cm、横48.7cmのサイズの鳥の子厚紙に描かれている。

作者についてははっきりしないが、江戸時代の鑑定士によって藤原隆能説というものが主張され、それ以来「隆能源氏」として知られてきた。しかし、昭和以降の研究によって、絵の様式にニュアンスの相違が確認され、一人の手になったのではなく、少なくとも四種類の異なった手が働いていることが指摘されるようになった。その指摘にもとづいて絵の作者を分類すると、おおよそ次のようになる。

第一 柏木、横笛、夕霧、御法
第二 蓬生、関屋、
第三 早蕨、宿木、東屋、
第四 竹河、橋姫

このように、異なった手になるにかかわらず、全体として共通するところも多い。

まず、線をはっきりとさせないこと。最初は薄い色の線で輪郭を描き、その上から顔料で着色し、部分によっては、その上に更に明確な線でなぞるところもあるが、大部分は線をぼかしたままに放置している。線描をはっきりさせる日本の絵の伝統においては、ユニークなところである。

人物の顔はどれも、引目鉤鼻といって、眼を細い横線で表し、鼻を鉤型の単純な線で表している。しかも表情は押し殺したように単調で、信貴山縁起絵巻や伴大納言絵巻におけるダイナミックな描き方とは対照的である。

建物は、屋根を省き、すこし上空から見下ろすような角度に描かれている。吹抜屋台と呼ばれるものであり、日本の絵画の伝統のひとつとなった描き方である。このように描くことによって、貴族の邸宅の内部を、奥行きを伴って表現することに成功している。

各帖の表現は、原作をそのままに再現したものではない。原作のエッセンスを、一つないし三つの場面に凝縮して、表現するという方法を取っており、そこには作者による原作の解釈が介在していると指摘できる。


源氏物語絵巻一:蓬生、関屋

源氏物語絵巻二:柏木

源氏物語絵巻三:横笛

源氏物語絵巻四:鈴虫

源氏物語絵巻五:夕霧、御法

源氏物語絵巻六:竹河

源氏物語絵巻七:橋姫、早蕨

源氏物語絵巻八:宿木

源氏物語絵巻九:東屋





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