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隅田川関屋の里、礫川雪の旦:北斎富嶽三十六景



(隅田川関屋の里)

関屋の里は、現在の足立区千住関屋町のあたり、隅田川が大きく湾曲する部分の北岸にあたる土地だ。そこから富士を見ると、間に隅田川がはさまることになるが、この絵の中には、隅田川は描かれていない。事情通の眼から見ると、これは不可解な構図だといえる。

絵の中では、三人の武士と思われる男たちが馬を走らせている。先頭の馬は全力疾走しているように見えるが、手前の二頭はそうは見えない。にも拘わらず、乗り手は前かがみになって全力疾走の態勢をとっている。

右手前の建築物は高札場のように見える。しかし、そうだとしたら、こんな人気のない場所に立てられている訳が分からない。おそらくこの絵も、北斎の遊び心から、実景とはだいぶ離れた絵になったのであろう。

なお、遠くに見える富士は赤く染まっているところから、朝日を浴びているのだと想像される。


(礫川雪の旦)

礫川とは小石川のこと、今の文京区の西部一帯をさす。かつてこの地域を小石川という小河川が流れていたことから、そう呼ばれるようになった。この絵の中の中景に見える川が小石川なのだろう。

この絵は富嶽三十六景の中で唯一雪景色を描いているが、それが山国ではなく、江戸の市中であるところが面白い。もっとも当時の江戸は、現在に比べて降雪量が多く、江戸の冬は雪景色が珍しくなかった。

その雪景色を眺めようという人々が、料亭に集まって、富士の方向に顔を向けている。富士は何故か、遠国ではなく、関東平野のなかに聳え立っているように見える。







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