旅館玉川(25×34cm アルシュ 2002年6月)
船橋の浜で塩業が盛んになるのは、明治以降のことらしい。今の千葉街道より南側、船橋市役所の立っている場所の西側一帯が三田浜と呼ばれ、ここに広大な塩田が開かれた。最盛期には二千八百人もの人が汐汲みに従事していたという。塩業が衰えると、塩田は海水浴場にかわり、東京に近いという地の利を生かして、ラヂウム温泉旅館や遊興施設を組み合わせた総合レジャーランドともいうべきものが出現した。
絵にある建物は玉川旅館といって、この遊園地の一角に、大正の末年に建てられたという。当時は海に面して、白砂青松を望む眺めのよい宿だったに違いない。しかし、その後浜は埋め立てられて、海は次第に遠のいてゆき、今ではマンション群に囲まれて、街中に立つような有様に変
わってしまった。
木造のこの建物は、建築当時そのままの姿を残している。宿そのものはかわっていないのに、町がすっかりかわってしまったために、この建物の立つ一角に来ると、遠い昔にタイムスリップしたかの感覚に陥る。