川越の和洋混交:水彩で描く風景

川越の一番街を歩いていたら何ともミスマッチな光景に出会った。古風な作りの店蔵を前景にして、ドーム式の尖塔を戴いた洋館が覆いかぶさるようにして立っているのである。

この洋館はさる銀行の建物で、国の重要文化財にもなっているとのこと。今でも現役で活躍している建物である。

川越は明治以降も北関東の商都として発展し続けたので、伝統的な土蔵とならんで洋館の類も結構建てられたらしいのである。それらの多くはすでに取り壊されて今では残っていないが、この銀行のほか、商工会議所の建物などいくつかが近代化遺産として、国の重要文化財に指定されている。

現代人にとって東京周辺の諸都市はサラリーマンの塒のある場所か、あるいは寂れた田舎町くらいにしか受け取れぬようになったが、かつては日本の近代化の一翼を似ない、活気に溢れた都市もあったのである。

川越は明治半ば頃まで、新河岸川の水運によって栄えたのであるが、明治28年に川越鉄道が、大正三年に東上鉄道が開通すると、急速に近代化した。その近代化の波に乗って多くの洋館も建てられたわけである。

今この町を歩くものにとっては、町の一部に残る蔵作りの家並が珍しく思われるばかりで、街の歴史に思いをいたすことなど興味の外のことだろう。またこの街に住む人たちも、過去の栄光を意識することは少ないのかもしれない。しかし街歩きの醍醐味は、風景の背後に歴史の息吹を感じ取り、眼前の眺めのうちに重層的な意味を感じ取ることにある。(平成14年10月)








                       
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