四方山話に興じる男たち
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ベルリンフィル:独逸四方山紀行



(ベルリンフィル演奏会場)

谷子に知人との面談の様子を聞くに、時間の余裕あらざれば十分とはいへざれど、そこそこ目的を達せりといふ。面談の趣旨はドイツの社会教育の現状たりし由。さても研究熱心なことなり。彼の学究ここに極まれりといふべきか。

午後四時過にアパルトメントを出で、地下鉄に乗りてポツダマープラッツに至る。この広場周辺はアレクサンダープラッツと並び、ベルリンの業務中枢地区なり。東西分裂時代には、この広場を壁横切り、分断の象徴たりしが、統合後は大規模再開発進み、いまやベルリンの中枢地区に発展せるなり。

広場周辺には多数の業務ビル林立せり。その一つにソニービルあり。ビル内に映画博物館あり。主としてドイツ映画の歴史をコンセプトとして紹介展示する施設なり。一階ロビーにて入場券を買ひ求め、エレベータに乗りて上階なるエントランスに至る。エントランス内空間すべてガラス張りの結構にて、あたかも空中楼閣の如き観を呈してあり。博物館内部に入るには、空中に浮かべるが如き橋を渡るなり。高所恐怖症気味の余としては、いささかもてあますものを感ず。そのことを以て、余は見物を中止して独り地上に戻らんと三子に申し出たれど、三子はこれを容れず。余を前後から挟み込むや、強引に橋を渡りて博物館内部に侵入せり。この際の余の恐怖、思ふべし。

このことを以て、余は世界中の高所恐怖症の諸子に向かって告ぐ。高所恐怖症の者は当施設に近寄るべからず、と。

この日のナイトライフは、ベルリンフィルの演奏を楽しむ計画なり。演奏が始まるまでの時間、ソニービル内のアトリウムにて茶を喫す。余はミルクシェイクを飲みたり。



六時過ベルリンフィルに至る。ベルリンフィルについては、音楽の殿堂としてあまねく知られたれば贅言を要せず。一交響楽団のために専用の施設を設けたるは例少なしといふべし。かの小沢征爾もここにてベルリンフィルハーモニー楽団を相手に長期間タクトを振りしといふ。

七時より学芸員による曲目解説あり。今宵の曲目は、ドヴォルザークの吹奏楽セレナーデDマイナー、マーク・アンソニー・ターニッジの管弦楽曲リメンバリング、ブラームスの小コンチェルト曲セレナーデ第二番Aメジャーなり。いづれもセレナーデをテーマとす。今宵は、そのセレナーデの三つのバリエーションを存分に堪能せられよ、とあり。

八時過より演奏。ドヴォルザークはやや退屈、ブラームスは大いに退屈したれど、ターニッジの曲は緩急に落差あり、大いに迫力を感ず。ターニッジは現存のイギリスの作曲家なり。今宵は自ら演壇に登場して演者に謝意を表してあり。作曲家としては、自分の作品のお披露目を世界最高峰の評判高きベルリンフィルに担はるるは大いに名誉あることなるべし。

なほ、この演奏会場は、演壇を巡って四周に観客席を設けたり。そのため演者の背後にも観客の耳あり。ギリシャ劇の舞台を彷彿せしむ。音響効果のほどは知らず。おそらく特別の設計をなしをれるならむ。

演奏の終了せしは午後十時半。ソニービル内の先ほどのアトリウムなるドイツ・レストランにて夕餉をなす。アイスバインやらサケのフライなどを食ふ。アイスバインとは、豚の脛を骨ごと料理したるものにて、骨より肉をそぎとって食ふなり。油が鼻につき、すこぶる食ひがたし。谷子などは、これはドイツを象徴する料理などといひてうまさうに食ひをりしが、余は油だらけの皮の部分をもてあますばかりなりき。

地下鉄に乗るに、シュピッテルマルクト駅にて停車す。深夜保線工事のためこれより先アレクサンダープラッツに至るまでの間運転せずといふ。同乗のドイツ人客、誰一人として不満を言ふものあらざれば、これは日常茶飯のことなるべしと受け取られたり。

地下鉄会社差し回しのバスに乗りアレクサンダープラッツに至り、そこより再び地下鉄に乗り、ゼーネフェルダープラッツに戻る。時すでに十二時をまはれり。レーヴェもすでに閉店したれば、真直ぐアパルトメントに戻り、すぐさまベッドにもぐりこみたり。


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