四方山話に興じる男たち
HOMEブログ本館東京を描く日本文化知の快楽水彩画あひるの絵本プロフィールBBS


ハンブルグ市役所、アルスター湖:独逸四方山紀行



(ハンブルグ市役所<ラートハウス>)

食後歩みてバウムヴァルに至り、そこより地下鉄に乗りラートハウス駅に至り、ハンブルグ市役所(ラートハウス)を訪問す。ゴチック風の壮大なる建物なり。この壮大さはハンブルグの富を象徴しをるが如し。ハンブルグは中世以来ハンザ同盟都市として栄え、巨万の富を蓄積す。今日においてもその富を背景にして、国法上ラント(州)と同格のステータスを誇るなり。

ドイツにて、ラントの権限は強大なり。アメリカのステート同様、内政にかかはるほぼすべての政治的・法的権限を行使す。しかれば、ハンブルグは一都市にして国家に劣らぬ存在感を発揮しをるなり。ラートハウスは、そのハンブルグの象徴として、単に市役所といふのみならず、一国家行政機関にも比せらるるなり。



ラートハウス前は市民広場なり。その一角にドイツ娘たちの一団あり、なにやらパフォーマンスをなしをれり。近づきみるに、水兵帽の如きものをかぶり、セーラー服の衿をつけたる少女数名、リーダーの音頭に合はせて歌を歌ひだしぬ。歌詞の如何を知らざれど、ハンブルグを賛美しをるものの如し。



正門扉をくぐれば左右に光まばゆきゴシック風装飾を施されたるエントランス空間広がり、そこを横切れば内庭に通づるなり。内庭の中心には青銅の彫刻群置かれてあり。その彫刻を眺めつつ休みをりしところ、岩子俄に便意を催す。便所を探すになかなか見つからず。緊急事態とて谷子に助けを求めたれば、谷子岩子を携へて便所の在処を探索す。やうやく見付けることを得たりといふ。例により便所の利用料として些かの金を要求せらる。それも二人の者に要求せらるといふ。妙とは思ひたれど、切羽詰りをれば反省の余地なし。二人分の料金を与ふるや、脱兎の如く個室に入り、たちまち便器に座して用を足せりといふ。余おもへらく、岩子は大金を投じてラッパを鳴らせるなりと。



ラートハウスはアルスター湖にほぼ接して立ちたり。両者を結ぶ舗道を歩むに、ハーレクィンの如き扮装の者らパフォーマンスをなしをれり。人を三重に重ぬるなり。一番下の人右手にて男を支へ、その男同じく右手にて第三の男を支ふるなり。もっとも第三の男は実物にはあらず、人形なり。それにしても、片手一本にて大の男を支ふるとは驚きに耐へたり。



アルスター湖畔を散策す。アルスター湖は、谷子によれば、エルベ川の支流アルスター川を堰きとめたる人造湖の由。アウセンアルスター及びビンネンアルスター大小二つの湖よりなり、この両者を隔つる堤に鉄道を通してあり。余ら、ビンネンアルスターのほとりに憩ひて、茶を喫す。浦子日本語の発音もてミルクティーを注文せしところ、湯を入れたる茶碗にインスタント・ティーバッグを添へて供せらる。ミルクはあらず。余浦子に向かって教示す、ドイツにて本物のミルクティーを欲しなば、テ・ミット・ミルヒと言ふべきなりと。

茶を喫しつつアルスターの湖面を眺めをるに、ハンブルグゆかりの詩人ハイネがハンブルグを称へて詠みし詩の一節思ひ出でられたり。曰く
  ハムブルグで私は人に訊ねた
  この町の街路はどうしてかう臭いんだね
  しかし猶太人と基督者はかういって答へた
  それは掘割のせゐだよ  (「ハイネ新詩集」より、番匠谷英一訳)
この歌を思ひ出でつつ、ハイネが何ゆえにアルスターの美しさを称へずに、掘割の臭気を嘆いたか、腑に落ちぬ心地せり。

ハイネは続けてアルトナをも歌ふなり。曰く、
  ハムブルグの次にアルトナの町を見物したが
  これまたずゐぶん美しいところだった
  そこでどんなできごとにぶつかったかは
  このつぎに話すことにしよう
余らがアルトナにて見聞したることは先述のとほりなり。

湖上オオハクチョウ、コハクチョウのほか、雁も多く棲息す。ドイツの雁は日本のそれよりも一回り大なり。みな人間に馴れ、近づき来りては餌をねだるなり。

アルスター湖よりハウプトバーンに至る道は、ハンブルグ最大のショッピングモールなり。一軒の時計屋に立ちより、時計を物色す。浦子は細君のためにユングハンスなる腕時計を求む。他のもの冷やかしていはく、これにて細君を喜ばしむれば、重ねて海外旅行の許可を得るべしと。



ハンブルグのハウプトバーンホフも開放型駅舎なり。ここより地下鉄に乗りダムトーアに至る。しかして六時丁度にホテルに戻り、暫時休養す。


HOME|  独逸四方山紀行 |次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016-2017
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである