四方山話に興じる男たち
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ドクメンタ:独逸四方山紀行



(ドクメンタ会場)

六時起床、七時朝食、八時半にホテルを出づ。この日は午前中全員揃ってドクメンタ会場をざっと見歩き、午後及び明日は二手に分かれ、谷子はドクメンタの研究を、残余のものは別途観光をなさんと欲す。ドクメンタとは、五年周期に行はれをる芸術祭にて、当代ドイツの芸術動向を知るには欠かせぬ催しなる由。谷子は二十年前ほど前より、毎回必ず参集しては研究を続け来りし由なり。今回もまたじっくり研究するつもりなれど、余ら他の者にとりては或は退屈ならんと思ひ、別行動を提案せるなりといふ。

トラムに乗りケーニッヒスプラッツに至る。日曜日とあり街は閑散たり。まづドクメンタの主要会場に赴く。広場いっぱいに巨大な構造物建設せられてあり。書物をビニールもて包装せしものを材料にして、パルテノン神殿風の建物を再現せんといふものなり。近づき見るに、歴史上名著と称せらるるもの夥しく嵌め込まれてあり。



その傍らには、土管もて組み立てたる巨大なオブジェあり。土管の中にはそれぞれ人を住まはしむる工夫なされてあり。或は二十一世紀型庶民住宅を、或は二十一世紀型ホームレスの夢を表現したるならん。余も内部に立ち入りたき欲望に駆られしが、無論さることは厳禁なり。



折から通り雨降る。木陰に雨宿りしつつジェラートを食ふ。余が雨宿りせる樹木はドイツ桐なり。日本の桐よりひとまはり大きく、葉は雑に出来たり。ドイツ人もまた桐を以て家具を作る文化を有するにや。



宮殿前の独逸式庭園を歩む。建物も庭園も完全に左右対称なり、幾何学への愛を感ぜしむ。庭園の一角に奇妙なる形状のオブジェ据ゑられてあり。これもまたドクメンタの作品なり。プラスティック材を以て僧形をかたどり、内部は空虚なり。何をイメージせるものならんや。



雁の類芝生上に餌をつひばみてあり。悠然として人間の存在を意に介せず。それを見て小型犬たはむれかけんとす。たはむれかけられたる雁は、子犬をうるさがりて逃げ去らんとす。そを子犬追ひかけをるうちに、雁一斉に飛び立ちたり。子犬もまたそれに釣られて飛び立たんとす。されど羽を持つ身にあらざれば、飛び上がりたるまま空中に羽ばたくことを得ず。頭より地上に落つるなり。その様を見て、余大いに喜ぶ。

グリムの丘の上に登り、埋蔵文化博物館を見物す。独逸式霊柩車、火葬用の骨壷、デスマスクなどのほか、死の舞踏を物語るアイテム多く展示せらる。詳細は別途記述すべし。



一時頃、さるトルコ料理屋に入る。酒類を置かず。谷子がいふには、回教徒の経営するレストランには、戒律を守りて酒類を供せざるもの多しといふ。余、酒類を伴はざる昼餉は昼餉にあらずと主張し、他の店に移らんことを提案す。谷・浦の両子これを肯んぜず。よって余と岩子の両名、近隣の食堂に席を移し、ビールと羊肉料理を注文せり。料理の量尋常ならず。半分ほど食ひ残したり。味はまずまずなりき。



食後谷子と残余の三名二手に別る。余らはまづ、ザンクト・マルチン教会に入る。十六世紀に創建せられたるプロテスタント教会なり。折からパイプオルガンを伴奏にして、素人合唱団賛美歌を合唱してあり。参集のドイツ人ら、やはり陶然として聞き惚れてあり。



その後トラムに乗り、ウィルヘルムスホーエ城を再訪、ヘラクレスの像を遠望す。また城内に立ち入りて、常設展示物を見る。ドイツ及びフランドルの絵画を中心に展示す。目玉はハルス、ルーベンスなり。特に印象に残る絵はあらず。

トラムに乗り、五時半頃ホテルに戻る。そこにて谷子と落ち合ふ。


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