四方山話に興じる男たち
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露西亜四方山紀行その三:ボリショイ・サーカス



(国立ボリショイ・サーカス劇場)

食後アルバート通りを散策す。この通りはモスクワ一のショッピング街にて、モスクワのオックスフォード通りともいふべきものなり。通りに面せる一銀行に入る。岩子手持ちのドルをルーブリに両替す。交換レート満足すべき水準なる由。

通りを歩みをるに、あやしきロシア人二人組になにやら話しかけらる。その様子いかにも胡散臭ければ早々に立ち去る。先程の雲助の同類と覚えたればなり。ロシアにてはいまだに人のよささうなる外国人旅行者をカモにしをる者多しと見えたり。

やや疲労進みたれば一旦ホテルに戻らんとて、スモレンスク駅より地下鉄に乗りドストエフスカヤ駅に至る。マグノリアなるスーパーマーケットに立ち寄り、石鹸やら洗剤を買ひ求む。ロシア滞在中はワイシャツやら下着の類は手づから洗濯するつもりなればなり。その後、ザムザムなるカフェに入りてコーヒーを喫す。

ホテルに戻り、フロント嬢に依頼してパソコンのWifiへの接続をなさしむ。素直な女性にて、そつなく余の期待に応へたり。ロシア人には先程の雲助の如き悪党がのさばりをる一方、かかる正直者もをるなり。その落差に驚く。

夜はボリショイ・サーカスを見物せんとて、五時半にホテルを辞し、地下鉄を乗り継ぎでウニヴェルシチェート駅に至る。駅を出づるや眼前にボリショイ・サーカスのアリーナあり。円形の体育館なり。このサーカス一座は、ロシア人のほか、ドイツ人、フランス人、アルゼンチン人及び蒙古、支那、朝鮮などの出身者を幅広く集めたり。数多くの出し物のうち、空中ブランコ、白馬上のアクロバット、空中を漂える辰の落し児など、人をして喫驚せしめたり。

女道化あり。すこぶる愛嬌あり。その演技人をして抱腹絶倒せしめたり。女の道化なれば、アルレッキーナとやいはむ。

余の背後の席には幼き子どもの集団ありしが、かれら黄色い声をはりあげて声援にあひつとめたり。その声に周囲の観客皆一斉に注目したり。保護者と思しき女性周囲の目を気にして子どもらをなだめんとすれど、子どもら一向に聞く様子なし。なほ、この夜、会場内ほぼ満席なり。

再び地下鉄に乗りチェーホフスカヤ駅に至る。カフェ・プーシュキンなる店に入る。店内満員にてしばし待機せしめらる。その間生ビールを飲む。ピルスナー系のコクのある味なり。ややしてテーブル席に案内せらる。そこにて赤ワインのほか、サラダ二種、肉料理、魚料理を注文す。余ムール貝を所望せしところ、浦子店員に注文するに日本語を以てす。店員了解と答ふ。しかして運び来れるものを見ればチョウザメのグリルなり。余浦子を冷やかして、ムール貝がチョウザメに化けたりと言ふに、浦子どういふわけかいたく立腹す。彼の自尊心を傷つけたるものの如し。かかる不用心が友人を失ふ原因とはなるなり。慎むべし、慎むべし。


(カフェにて)

宴酣となるに及び、店員余らのために写真機のシャッターを押せり。食後彼にチップを与へ、タクシーの手配を依頼す。先程のことあれば、車両ナンバー及び料金を明確にせしむ。そのかひありて安価にして利用することを得たり。ドライバーにチップを弾みたるところ、喜ぶことしきりなり。このドライバーはロシア人にあらず、トルコからの出稼ぎなり。

十一時過ぎホテルに戻る。シャワーを浴び、先程買ひ求めし洗剤を用ひてワイシャツと下着の洗濯をなす。



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