四方山話に興じる男たち |
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EUの理念を聞く |
前回の四方山話の例会の席上、石子がEUの文書を自分で翻訳したものを配り、次回はこれに基づいて自分がレポートをすると言ったので、小生は20ページにわたるそのレポートを熟読したうえで今月の例会に望んだ次第だった。会する者は小生と石子のほか、小、浦、岩、六谷の諸子合せて六名だった。 ところが石子は別のレジュメを用意してきて、今日はこれに基づいて話をしたいと言い出した。あらかじめ当初の資料を熟読していた小生にとっては意外な展開だったが、まあそれもよいだろうと腹をくくって彼の話を聞いた。 レジュメのタイトルは「EUについて」となっている。石子としては、日本ではEUを紹介するものが少ないが、やはりその動きを知っておくことは有益なので、あえてテーマに選んでみたということだった。 最初にEUの歴史と現状について話し、続いてEUの理念や政策上の特徴としての Social Dimension について紹介し、最期にいわゆる Brexit についてのコメントがあった。 石子は、EUを誕生させた最大の要因はソ連に対抗できる資本主義圏を形成しようとする意志だったと言った。小生はEUというものを、基本的には英仏によるドイツの封じ込めと考えているので、異見ではあるが、まあそういう見方も成り立たないわけではないと思って、批判することは差し控えた。 EUの基本理念は、基本的人権、民主主義、法の支配であり、UE加盟国は他の国を加盟させる際の条件としてこれらの状況を審査する一方、加盟各国にこれらの条件をますます充実させるように絶えず呼びかけているのだという。先日配った労働政策に関するEUの提言も、こうした考え方に基づいたものだそうだ。 ところでそのEUに、何故石子が関心を抱くようになったか。それは、石子がライフワークとしている農業問題への関心の延長としてなのだそうだ。EUの農業政策は、農業の振興という点で日本よりはるかに進んでおり、その結果農地の保護や食料自給率に顕著な成果をあげている。農業政策らしいものを持たず、そのために農業が衰えるばかりの日本にとって、大いに参考すべきだというのが石子の意見である。 EUはまた、食品の安全性についても高い基準を設けている。食品の安全については Positive list 制と Negative list 制があって、日本は後者を採用しているが、EUは前者を採用することで、食品の安全性を高いレベルで維持できている。現行の日本の食品衛生法規は2004年に改正されたものだが、そこではじめて「食品の安全性の確保」とか「国民の健康の保護」といった理念が取り入れられた。それまでの食品衛生法規は食品製造業者を対象にした取締り法規でしかなかった。この改正については自分も、食品流通の立場から深くかかわった。そう石子は言って胸を張ったのだった。 すると小子が「スポンサーのようなことを言うな」と批判した。小子が何故そんな批判を言ったのか、小生にはわからないところがあったが、言われた当の石子も、俺はEUの政策について説明しているのであって、俺自身がこれについて批判される筋合いはないと言って反論していた。 石子が一通り話し終わったところで、皆から色々な意見が出され、活発な議論が展開された。最もホットな話題は、EUが果たしてこれからの資本主義社会をどのように変えていくだろうかということだった。EUの統合が世界規模に広がれば、資本主義も世界規模に統合され、その結果世界規模での資本主義の終末を迎える条件が整うのではないか。そうなればマルクスの予言が現実味を帯びて来る。そういう推論をする者がいる一方、Brexit の例を取り上げて、EUは結局は各国のナショナリズムを克服することは出来ないだろうという意見も出された。小生としては、EUが一つのきっかけとなって資本主義がグローバル化し、そのことを通じてマルクスの予言が現実味を帯びるのではないかと思いたいところだった。 EUの話が一通り終わったところで、現在の政局に話題が移った。例の改ざんをリークしたのは大阪地検の者に違いないと六谷子が言った。それも朝日だけにリークしたのは、朝日なら出所を決してばらさないと思ったからだろう。読売や産経だとすぐ出所をばらされてしまうというのだ。いずれにしても今回は、朝日がよくやったと小生は言った。アメリカでは政権内部からアノニマスを条件に情報をリークすることが日常化しているが、日本ではまだそこまで至らなかった。ところが今回リークするものとそれを受ける者とがタッグを組んで、政権を追い詰めることができた。これは日本が成熟してきたことの現れだろう、と小生は意見を述べた。 今回の某元役人の国会喚問にしても、この元役人は野党の追及を巧みにかわしていた。これまでなら殆ど考えられなかったことだ。そこにも日本の成熟が見られる。そう言ったところが、岩子が口を挟んで、「あの元役人はまったくふざけている」と言うので、小生は、「肝心なのはあの役人を罵って留飲を下げることではなく、政治が問題を究明することだ。その点では今回は、野党の無能力が露呈され、その一方で役人の応接のスマートさが目立った。スマートな役人を相手にすれば、政治家はもっとスマートにならねばつとまらないわけで、そういう意味で今回は日本の政治の成熟度が強く問われた」と重ねて自分の意見を述べた。 すると石子は小生に向かって、「お前は相変わらず例の熟女たちと楽しんでいるようだが、一体どんな具合にしてあんなに仲良くなれるのだ?」とこれは今日の議論とは全く関係のないことを言い出した。すると六谷子が口を挟んで、「僕も趣味の和弓を通じてご婦人たちと仲良くしているよ」と言い出した。すると石子は、「それは挨拶程度の付き合いだろう、ところがH(小生のこと)の場合には熟女たちと一緒に温泉に浸かりに行ったり、かなり親密な交際をしている」と言う。その口調に、どうも小生に対するやっかみの感情が認められたので、小生は、「俺は女に愛されるタイプなんだ」と答えてやった。 ここで本題に戻って、安倍政権がこれで持ちこたえることができるのか、それとも一層沈んでいくのか、その分かれ目は直近の世論調査から占えるだろうということになった。どうも前者の可能性のほうが大きいようだというのが、大方の印象だった。 このほか今夜は議論が尽きなかったが、適当なところで切り上げ、次回は浦子と六谷子にジャーナリズムの現状について語ってもらおうということになった。 散会後は例のブリティッシュパブに入り、この秋にでもロシアに旅行しようよと話し合った次第だ。 |
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