向島百花園(25×34cm 2005年9月)

21世紀の日本人には月を愛でるという風流はトンと見られなくなり、まして暦を見ながら月の満ち欠けを気にかけるなどということは遥か昔の陋習のように受け取られがちだが、それでも年に一度の中秋の折ばかりは、薄を飾って満月を眺める楽しみが未だ忘れ去られてはいないようだ。

東京で月見の名所といえば、昔から向島百花園を以て第一だとされてきた。一年中花の絶えないこの庭園には、秋ともなると薄に萩が人の目を喜ばし、花に清香月に陰の言葉どおり、月を愛でるための舞台装置が整っていたためであろう。昭和の好景気の頃東京の空は煤煙に覆われて何も見えない夜が続いたものだが、この頃では澄んだ夜空に月の影をくっきりと望めるようになった。

そんな訳で、中秋の日の九月十八日、向島百花園を訪ねてみた。期待に違わず萩が可憐な花を咲かせ、薄の穂が天を指して勢いよく延び出ていた。園内には日の明るいうちから月見目当ての人々が集まり散策を楽しんだりしている。絵にある母子連れはそんなひとびとの一組である。



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