玉の井・いろは通り(28×35cm 2005年10月)

玉の井は荷風の小説墨東綺譚によってすっかり有名になった。この小説を読むと、戦前のこの街の雰囲気が如実に伝わってくる.三業地の中でも赤線と称される庶民相手の手軽な色町だった。東京は江戸の昔から独身の男が多い社会であったから、この種の色町があちこちに出現したのである。それらの多くは寺社の門前に形成されるのを例としたが、この街などは東武鉄道の開通をきっかけにできたのではなかろうか。荷風の小説から受ける限りでは、世俗的でビジネスライクな雰囲気の街だったと思われる。

この界隈は空襲をのがれたこともあり、戦後も大いに栄えたらしい。だが売春防止法の施行を境に急速に街の姿を変えた。三業地の中にはトルコ風呂など別の形の風俗営業で生き延びようとした所もあったが、この街は下町の普通の町として歩んできた。

絵は玉の井のメインストリートともいうべきいろは通りを描いたもの。かつては通り沿いに宿屋が立ち並び、路地の奥には抜けられますと書した看板が立っていただろう。今は何の変哲も感じさせぬ商店街だが、往時の名称はいまだに使っている。






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