四方山話に興じる男たち
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劇団「態変」の公演「ルンタ(風の馬)~いい風よ吹け」を見る




先日の四方山話の会の卓上、福子が「態変」という関西の劇団が東京公演するから見に行かないかと提案したことについてはこのブログでも触れたとおりだが、昨夜(3月11日)同好の諸子と見に行った。場所は高円寺北口の区立劇場「座・高円寺」だ。筆者のほか、石、浦、七谷及び岩子夫妻の6人が集まった。言いだしっぺの福子は何故か参加しなかった。開演までわずかだが時間があるというので、二階のカフェでビールを飲みながら簡単な食事をした。筆者はビーフカレーを食った。

この「態変」という劇団は、肢体不自由者からなる劇団で、無言のパフォーマンス劇を得意にしているそうだ。30年ほど前に活動を開始し、主に関西で公演を続けてきたが、今回12年ぶりに東京に出てきたのだという。この団体には関西にいる清子がかかわりを持っているほか、七谷子もメンバーに知りあいがいるという。

今宵の演目は「ルンタ(風の馬)~いい風よ吹け」というテーマで、詳しくはわからなかったが(無言劇なので)、どうやらチベット高原の風を受けて走る馬の群をイメージしているようだった。みなさん身体のどこかが欠損していたり、麻痺していたりするので、体の動きが意の如くにはならない。その不如意ながらも懸命な動きが独特のリズムを生み出して、見ているものたちを、なんともいえない不思議な感覚に誘う。

全部で十数名出てきた演者のうち中核となるのは八名ばかり。その中には、四肢全部が欠損している人もいるのだが、みな自分の能力の及ぶ範囲で、つまり残存する身体を最大限有効に使って、パフォーマンスを展開していた。パフォーマンスの主なものは、床の上でころがることだ。皆で床の上を転がりながら、互いにもつれ合ったりするさまが、なんとも不思議な感じをかもし出す。

音楽のほうもパフォーマンスにあったユニークなものだった。三人のプレーヤーがいて、一人はベース、一人はシンセサイザー、残りの一人は管楽器を演奏する。管楽器は尺八であったり、サクソフォンであったり、横笛であったりするが、時には打楽器に変ることがある。それらが奏でる音が、演者たちのパフォーマンスと見事に呼応しあって、高い舞台効果を挙げていた。この劇場は音の反響がよく、音楽会場としても優れていると感じた。

全体で一時間半ほどの舞台は、10あまりのシーンに別れていて、それぞれ違ったパフォーマンスが繰り広げられた。圧巻は、演者たちがそれぞれ体の一部でつながりあって人間の鎖を作るところ、そして全員でチベット仏教風の祈りを捧げるところだった。最後のシーンでは、原色で染め抜いた旗を万国旗のように並べたものを天上からいくつも吊るし、祝祭的な空間のなかで銘々が自分なりのパフォーマンスを披露した。ここで隣に座っていた七谷子が大きな拍手の音を立てると、他の観客たちも一斉に拍手し出した。まだ舞台は終わっていないのだが。この拍手に気をよくした俳優たちが、舞台に下りてきてパフォーマンスをする。

舞台が終わったところで、役者一同が観客に挨拶した。リーダー格の女性金満里さんが一同を代表して言葉を述べる。その最初の言葉で、東日本大震災で亡くなった人々の霊に祈りを捧げたいと述べた。筆者は、この日が3・11だということを、改めて思い出した。

観劇後、岩子夫妻はすぐに去ったが、残った四人で軽く飲もうということになり、高円寺北口の路地に面した小さな居酒屋に入った。

石子がほかの者に劇評を聞いて「わかったかい?」と言う。「演劇は、わかる、わからない、ではなく、感じるか感じないかだよ」と筆者が応える。「じゃあお前は感じたのか?」と石子が言う。「ふむ、感じたよ」と筆者が応える。こんな調子で始まって、四人で蒟蒻問答のような話をやりとりしながら時間をつぶしたのは、いつものとおりである。(写真は公演のポスター)



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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016
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