四方山話に興じる男たち
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生命倫理の講義を聞く


例の四方山話の連中と新橋の古今亭で会った。今日は福子から学者人生についての回想話が聞けるはずだというので、合せて十一人が集まった。筆者と福子の他、石、浦、岩、柳、六谷、七谷、田、梶、越の諸子だ。越子はこの会には初参加だ。彼は我々より二年後輩だが、先輩から声をかけられ、面白そうだから参加させてもらったと言う。

福子が用意してきたレジュメを皆に配る。びっしり文字で埋まったA4のペーパーが五枚、表紙には「関係性(さまざまな人間関係のあり方)から生命倫理を考える」という題名が書いてある。はてどういうことかなと不思議に思う間もなく、福子がレジュメにもとづいて話を始めた。生命倫理についての講義のような話だ。なんで我々が福子から生命倫理の講義を聞かされねばならぬのか、腑に落ちないところがないでもなかったが、福子が熱心に話すので、我々も熱心に聞いた。だが、いきなり生命倫理について話されても、いささか消化不良になるのは致し方のないところで、田子などは、福子に向かって、あんたの意図がよくわからぬから、もっとわかりやすく言ってくれと言い出す始末。まあ、福子としては、自分の日頃の仕事ぶりの一端を皆に紹介するつもりで、こんな講義を聞かせたというところだろう。要するに我々は俄学生に見なされたわけだ。ちなみに今回の講義は、普通なら90分二コマに相当するそうだ。それをわずかな時間でしゃべったので、聊か説明不足になるのは仕方ないのかもしれない。

生命倫理はよいとして、お前の自分史を聞かせろよ、と浦子が言った。そこで福子は学校を卒業してから今までのことを、例の朴訥な調子でぼちぼちと話し始めた。大学院では哲学を専攻し、博士課程まで修了した。だがその先、まともな就職先がない。哲学というのは、実学と違って需要が少ないので、どこの大学院でも就職先に困っている。そんなわけで四十歳までは、いろんな大学の非常勤講師を掛け持ちして糊口をしのいだ。その間は、女房の稼ぎに大きく頼った。女房は学校の教員をしていたので、それなりの所得があった。だから俺は今でも女房には頭が上がらない。

四十歳の時に、和子の口利きで青森の大学に助教授として就職できた。ここには17年間いたが、その間単身赴任の状態だった。学生寮の舎監を兼務していたので、住居には困らなかった。東京へは月に一度戻ったほか、夏休みには女房が子どもを連れて遊びに来てくれた。その子どもにも最近孫が生まれた。孫というものは実にかわいいものだな。

その後東京の医科大学に移り、生命倫理を担当することになった。さっきの話は大学でやっている講義を再現したものだよ。こう福子が言うと、岩子はさも感心した様子で、いや実に高尚な話を聞かせてもらったよ。いままで倫理とは不倫の反対ぐらいにしか考えていなかったが、なかなか懐が広く奥行きの深い世界なんだね、と。

ところで細君とはどんないきさつで結婚したのかい、と誰かが余計なことを言う。福子はわるびれずに、女房とは学校で知り合ったのだが、最初に女房の方からモーションをかけてきた。電話でデートに誘われたんだ、それがきっかけで結婚した、と答える。福子の結婚式は石子などが音頭をとって実行委員会を立ち上げ、当時としてはめずらしい趣向で和気藹々たるものになったのは筆者もよく覚えている。

福子の話が一段落すると、学生時代の思い出話とか政局の話とかに移った。安倍政権には皆厳しい見解を述べた。越子などは、次の選挙で安倍政権が大勝したら、自分は日本の未来を見限ると断言した。まあ、そんなに深刻になる必要もないだろうと、筆者などは思うのだが。

そのうち次回の話者はジャーナリストを代表して六谷子にお願いしようということになった。折角ジャーナリストの話を聞くのなら、今の日本の政治についても高見を拝聴したい。ついては7月10日に参議院選挙が実施されることを踏まえて、その前に話を聞こうじゃないかということになった。六谷子の分析を拝聴して、どこのだれに投票したらよいか参考にしたいから。

散会後、石、浦、岩、梶、越の諸子とともに、先日入ったTOというバーに行った。ここでいつものとおりジャック・ダニエルスの水割りを飲みながら歓談した次第だ。石子と昔話をしているうち、お前のアパートにとまったことがあったな、と言ったところが、石子にはそんな記憶がないという。だれか他の奴のところと勘違いしているんじゃないのか、というので、いやそんなことはない、大山のお前のアパートまで連れて行ってもらったじゃないか。そういうと石子は不審な表情をして、おれは男を自分のところに泊める趣味はないんだがな、と重ねていう。なにか勘違いをしているように見えたので、お前も変な奴だなと言ってやった。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016
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