四方山話に興じる男たち
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ロシアへの旅行報告


四方山話の会の十月の例会は、小生らが先日行ったロシアへの旅行報告に宛てられた。小生が総論を話し、その他の諸子がそれぞれ自分の言いたいことを補足しようという具合に意見統一を行ったうえで、会に臨んだ次第だ。参加したものはロシア旅行四人組のほか、福、六谷の両子を合わせて六人だった。

他人の旅の話を聞かされても面白くはないかもしれないが、諸君もいづれはロシア旅行をする機会があるかもしれないし、その折には多少の役に立たないでもないと思うから、我慢して聞いてほしい。そう前置きして小生は話し始めた。

この旅行については、小生は別途ブログ記事を作成して目下連載中である。連載は序文を含めて十七回に及ぶ予定であり、したがって詳細な記録になるはずだから、詳しくはそれを参照願うこととして、ここでは総論的な話をしたい。こう言って小生はロシア旅行で感じたいくつかのことがらを話したのだった。

まづ、治安の悪さについて。ロシアは先進国を標榜する割には治安が悪く、外国人旅行者はいまだに災厄に見舞われるというのが実態である、ということを我々は身を以て学んだ。そのいくつかの例を話したい。そういって小生は、モスクワで雲助タクシーにぼられた経緯、エルミタージュ美術館で岩子が掏りの被害にあったこと、さるレストランで不当な請求をされたことなどを話し、そのほかにも観光地では守衛からぞんざいな態度を見せつけられたりと、あまりよい印象がなかったということを話した。

こう言うとロシア人はみな雲助の類に思えるかもしれないが、そんなことはなく、多くのロシア人は我々に対して親切だった。小生は一同を代表して数多くのロシア人に話しかけたが、一度として嫌な顔をされたことはなかったし、困った時などは、情けない顔をして助けを求めると、快く助けてもらえた。こういうわけであるから、大多数のロシア人の親切さが、一部の悪党の心ない行為によって台無しにされるかのごとき事態は、ロシアという国にとって残念なことである。

こう言って小生は、ロシアに対する相矛盾した感情を吐露した次第だった。そのほか、ロシアの街の表情とか、ロシア人の信仰の深さとか、ロシアの地下鉄が非常に利用しやすくできているばかりか、核戦争に備えたシェルターとしての役割も期待されているということなどを話した。なにしろロシアの地下鉄はいづれも百メートルもの深さに作られている。それだけ深ければ、核の打撃に多少は耐えられるかもしれない。

以上、小生は感情を込めてロシアの体験を披露した次第だったが、岩子始め旅行の同人がまた輪をかけて感情を込めながら、自らの体験を語ったのだった。掏りに財布を掏られた岩子は、帰国後保険会社に赴いて被害の届け出をしたそうだが、保険会社ではまともに取り合ってくれなかったそうだ。岩子はすごすごと引き下がったそうだが、それでは何のために保険に入ったのかわからぬではないか。一万四千円もの高い保険料を取りながら、なんらの保証もしないとは詐欺というべきだ。小生などはそう言って岩子を励ましたのだが、なにせもう終わってしまったことだから、如何ともなしがたい。

石子は、ノヴゴロドの教会の日曜ミサに接して、小生が涙を流しながら感動していたことを取り出して、小生のセンチメンタリズムを冷やかしたのだったが、それは人の真心を知らぬものの言い草だといって、小生はいささか反発した次第だった。宗教心に無感動なところは他の諸子も同様らしく、小生のそうした霊妙な感性の現れは、かれらには理解できないようである。

浦子は旅行中食事担当としてレストランの手配などを取り仕切ってくれたが、その立場からして、ロシア料理はまあまあの出来だったと言った。ただし、スープにしろシチューにしろぬるすぎるのが気にかかった。ロシア人の舌は熱さに耐えられないようにできているのだろうか。浦子がそう言うので小生は、ロシア人の舌が特殊な構造をしているとは言えるかもしれないと補足した。ロシア語の母音体系は独特で、軟母音といって、べちゃっとした音からなっている。たとえばコメディという言葉をロシア人はコミェヂーと発音する。そう言ったところが六谷子は、寒さで舌がもつれたからではないかと憶測を述べた。

なお六谷子は我々の報告に敬意を表しながら、次回は是非このメンバーでキューバに旅行し、その報告を行ってもらいたい。自分にはキューバに行く機会がないと思うので、諸君にその穴埋めをしてもらいたいものだと言った。それを聞いた小生は、自分自身の排便の衝動を、他人にかわって排便してもらうことでしずめようとする類の話だと思った次第だ。

ロシアの話題の次は、先日行われた沖縄の知事選の話題に移った。この選挙で玉城候補が勝つとは思わなかったと皆が言うので、小生は、自分は玉城候補が勝つと思っていた、と言った。それだけ沖縄の人たちの怒りが強いということで、その怒りを理解できないのは、事態を正確に見ようとしないからだ、とこれは、小生日頃の持論を披露した次第だ。

こんなわけで今宵は、ロシア旅行の同人たちが、旅行中の思い出を楽しそうに語り、それを残りの二人が聞かされるという構図になった。聞かされた二人には、ご苦労さんとしか言いようがない。

なお、散会後は同人相携えてブリティッシュパブに入り、ジャック・ダニエルスのソーダ割を飲んだ次第だ。



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