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半能「絵馬」を見る




一昨年(2019年)に行われた京都薪能の一部をNHKが取り上げて放映していた。出し物は観世流の半能「絵馬」。半能というのは、文字通り能の曲目のうち半分だけを演じるもので、たいていは後半部である。こうした形式は、それ自体が独立した曲に転化する場合もある。「金札」とか「菊児童」といった曲は、もとの曲の後半部だけが切り離されて再構成されたものである。

能の後半部であるから、自ずから舞が中心になる。この「絵馬」という曲は、三種類の舞を見せてくれるところに特徴がある。この能には、天照大神、天宇受売命、天手力男命の三つのキャラクターが出てくるのだが、天照大神が中の舞、天宇受売命が神楽、天手力男命が神舞を舞う。中の舞は序の舞よりもややテンポが速いところがあるが、それでもゆったりとして優雅な舞である。神楽と神舞は神前で舞う舞をいうが、女が舞うと神楽、男が舞うと神舞というらしい。

曲のテーマは天岩戸神話である。機嫌を損なって岩戸の中に隠れた天照大神を、他の神々が色々趣向を凝らして機嫌を取ろうとする。天宇受売命は衣をはだけて猥褻な舞を舞い、それに興味を覚えた女神が顔をのぞかせたところ、天手力男命が岩戸を押し開いて女神を外に連れ出すというような話である。この能の中では、天照大神は「あまてるおおがみ」と呼ばれている。

なお、この薪能は、平安神宮の社殿前で、しかも明るい日中に行われた。解説者によると、今日各地で行われている薪能のはしりとなったという。そもそもの始まりには、黄昏時から日没後にかけて行われていたらしい。



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