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焔:上村松園の美人画




「焔」と題するこの絵も、能に題材をとった作品。この頃松園はスランプ状態に陥っていて、なんとか新機軸を得たいと考えていた。その結果が、伝統的な能に題材をとりながら、人間の激しい感情を表現するというものだった。「焔」とは「瞋恚の焔」と言われ、激しい怒りの感情をあらわす言葉である。

これを製作するにあたっては、松園は能の師匠金剛巌のアドバイスを求めたそうだ。金剛は「葵上」から、六条御息所の激しい怒りを表現することを勧め、それに従って松園は、女性の怒りをリアルに表現しようとした。もっともこの絵の中の女は、源氏物語の時代ではなく、桃山時代の服装をしている。それを選んだのは、松園のこだわりだろう。

女は、うつむき加減の姿勢で、髪の毛の先端を口にくわえている。髪の毛をくわえるのは怒りの表現なのか。足元が描かれていないのは、この女の本性が怨霊だという意味か。



これは、女の顔の部分を拡大したもの。この表情の作り方にも金剛巌の指導が込められている。能面には、女の嫉妬を表現するために、目に金泥を施す。それを泥眼というのだが、この絵にもその泥眼が施されている。その金が光り輝くことで、目に異常な迫力が出るのだという。

(1918年 絹本着色 189.0×90.0cm 東京国立博物館)





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