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ガス灯:萬鉄五郎の世界




「ガス灯」と題したこの作品も、同時代の西洋美術の新しい動きに触発されたものと考えられる。構図的には、キュビズムともフォーヴィズムとも違い、色彩的にはかなり抑制された地味な感じである。おそらく、西洋美術の新しい動きを意識しながら、鉄五郎独自の方法を模索したのであろう。

中央にガス灯を描き、その背後に暗緑色のボリュームたっぷりなフォルムを配しているが、そのフォルムは極端に単純化されており、抽象的な印象を与える。一方、画面右下に見える寺院らしき建物は、ガス灯のもつ洋風なイメージとはチグハグである。それは鉄五郎が意図的に組み合わせたアンバランスなのだろう。

この頃鉄五郎は、ガス灯とか電飾イルミネーションとか、洋風の光の文化に興味をいだいていた。前に紹介した「風船をもつ女」における白熱電灯とか、仁丹の広告塔をモチーフにした絵などに、鉄五郎のそうした関心が現れている。

全体として暗い色調になっている。これ以前の、フォーヴィズムの影響を受けた多彩な色彩表現とは、極端に異なっている。これ以後、鉄五郎の画面は次第に暗い印象に傾いていく。

(1913年 カンバスに油彩 33.2×24.5㎝) 




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