水彩で描く東京風景
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京成線動物園博物館駅:水彩画・東京風景



京成線動物園博物館駅(28×35cm ヴェランアルシュ 2006年1月)


国立博物館の前の通りを図書館の方へ曲がる角に、一風変わった建物が立っている。よく見ると、屋根の形などが国会議事堂に似ているのである。

これはかつて京成電車の駅として用いられていたもので、博物館動物園駅といった。京成の線路は、日暮里駅を出たあとJRの線路を跨いで谷中の台地に上り、寛永寺付近で地下に潜って不忍池畔の山下まで通じている。この駅は日暮里駅と上野駅の中程、上野の山のほぼ真中に位置しているのである。

そのわりに余り知られることのなかった理由は、ここを利用する人が少なかったからだ。というのも、公園の真中に駅を作ったことの制約があったのか、構内が非常に狭く、プラットホームも短かったため、京成電鉄では一部の電車しか停車させなかったのである。

それでも子どもの頃一度だけ、何かの拍子でこの駅に下りたことがあった。狭く薄暗い地下構内から階段を上がって地上に出ると、そこには上野公園の広い空間があり、突然の眩しい光に、どこか晴れやかな場所に引き出されたかの印象を受けたものである。

聞くところによれば、津田沼始発の短い編成のローカル列車がとまっていたらしい。今ではそのような列車も走らなくなり、この駅は平成九年を最後に廃業になったという。

ところで、国会議事堂に似ている外観についてだが、実はこの駅が完成したのは国会議事堂より早いのである。議事堂の方は大正九年に着工され、昭和十一年に竣工しているのだが、こちらはそれより早く、昭和八年に開業している。

この時代、日本は洋風建築の隆盛期にあたり、アールデコ調の建築様式が大いに流行した。各地に建てられた公共建築はもとより、民間の洋館までこのスタイルを取り入れたのである。今時の東京の街を歩いていて、古びた洋館の残っている風景に心を打たれることがあるが、このような建物の多くはこの時代にたてられたものだ。

道の反対側から眺めると、背後の緑に映えて何とも趣のある風情に見える。京成電鉄では、当面この建物を解体する計画はないそうだが、是非このままの姿で残しておいて欲しいものである。    




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