王子・さくら新道(34×25cm ヴェランアルシュ 2006年5月)

王子駅と飛鳥山との間に、古びた木造の長屋がひっそりとたたずんでいることは、王子駅を利用する人々には以前からよく知られていたらしい。長屋はさくら新道といい、駅のホームから仔細に眺め渡される。わたくしは数年前、仕事のついでに王子駅を通りがかった際にみかけて、その由緒ありげな様子に始めて興味を覚えたのであった。きけば終戦直後の闇市の面影を残す飲食店街だという。

今年の春、飛鳥山に花見に来た帰り、わたくしはこの一角に入り込んでつぶさにその様子を観察した。絵はその折にスケッチしたものである。長屋は飛鳥山のふもとの狭い路地に沿って、100メートルばかりもあったろうか。建物は相当に傷み、今にも崩れそうな中にも、一階部分には飲み屋の看板が立ち並び、二階には布団が干してあったりして人の生活の匂いがした。わたくしはいよいよ興味をそそられ、機会があったら飲みに来ようと思ったほどであった。

そんな訳で、しばらくたってから職場の者たちと王子を通りがかった際、彼らを誘って再びこの一角に立ち入った。適当な店を見つけて入ろうと思ったのだが、店の大部分は閉まったままである。なかに二三暖簾を出しているものもあるが、気軽に入れる雰囲気ではない。いったん入るとただでは出てこれないような予感を感じさせる。結局ここで飲むのはあきらめて、線路の反対側の柳小路で飲むこととしたのだった。

建物が老朽化したために店をたたむものが増えてこんな有様になったのか、あるいは公園整備か何かの事情で立ち退きをせまれてでもいるのだろうか、わたくしにはよくわからずじまいだった。






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